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店舗テナントの閉店は、契約書に書かれた予告期間ぎりぎりで知らされるのが普通です。短ければ3か月前、長くても半年前。そこから逆算して募集を始めることになります。

次のようなところで止まっていませんか。

  • 退去の連絡が来てから動くと、いつも時間が足りない
  • 空室期間を作らずに次の入居者を決めたい
  • 賃料は上げたいのに、下げる交渉ばかりになってしまう

2026年3月、埼玉県のあるオーナー様から相談をいただきました。所有する区分店舗の2階に入っている美容院が、2027年3月末で閉店するという内容です。閉店のちょうど1年前でした。

この1年があったことで、賃料は20%アップで再募集でき、歯科医院の入居希望まで進みました。閉店の連絡が早く届くと貸主の打ち手がどう変わるのか、そして早く届く関係をどう作るのかを、実際の数字と経緯で整理します。

この記事でわかること
  • 閉店の連絡が1年前に届くと増える4つの打ち手
  • 賃料30%アップから20%アップへ調整した実際の経緯
  • 契約が半年前通告でも1年前に相談が届いた理由
  • 入居者との関係づくりで貸主が実際にやっていること
  • 退去の予兆を早くつかむために今日から確認する4項目
この記事がおすすめな人
  • テナントビルや店舗区画を所有している貸主
  • 退去の連絡を受けてから慌てて募集を始めている方
  • 空室期間を作らずに次の入居者を決めたい方
  • 賃料を下げる交渉ばかりになっていると感じる方

閉店の連絡が1年前に届くと、貸主の打ち手は4つ増える

早く知って何がよいのか。答えは、残り期間が長いほど、条件を貸主の側から決められる範囲が広がることです。

今回の相談で実際に使えた打ち手は、次の4つでした。

  1. 賃料を強気の条件から試せる
  2. 次の入居者を選ぶ余裕ができる
  3. 営業中の状態のまま内見してもらえる
  4. 原状回復の条件を交渉材料にできる

どれも残り期間が短いと選べません。今回の区画で何が起きたのかとあわせて、1つずつ見ていきます。

1. 賃料を強気の条件から試せる

残り2〜3か月しかない状態で賃料を上げて出すと、反響が来なかったときに戻す時間がありません。結果として、現状維持か値下げからのスタートになります。

1年あれば、上限側の条件を先に試して、反響を見ながら下げる順番で進められます。上げてから下げる順番を選べるかどうかは、残り期間で決まります

2. 次の入居者を選ぶ余裕ができる

期限が迫っていると、最初に手を挙げた相手で決めるしかありません。1年あれば、業種、営業時間、内装工事の規模を見比べたうえで決められます。

今回も、候補が複数出るまで待つという選択肢が最後まで残りました。空室期間の心配がないうちは、長く営業してもらえそうな相手を選びにいけます

選ぶ側に回れたときに何を見るかは、優良テナントの見極め方で、面談で聞いておく項目まで整理しています。

3. 営業中の状態のまま内見してもらえる

閉店後に空になった区画は、広さと状態は分かっても、店として使ったときのイメージが伝わりにくくなります。

今回の区画は、まだ美容院が営業している状態でした。什器や設備が残っているぶん、内見に来た相手はそのまま使う前提で見られます。

4. 原状回復の条件を交渉材料にできる

退去日が近いほど、原状回復は契約書どおりに処理するしかなくなります。時間があれば、退去する側と次に入る側の両方に合わせて条件を組み替えられます。

契約上はスケルトンで返してもらう区画でも、床、壁、天井を残したまま引き渡す形に変えられます。退去する側は解体費が減り、次に入る側は初期投資が下がります

どこまで残すと次が決まりやすいのかは、閉店後にスケルトンで戻すか居抜きで残すかの判断基準と費用感もあわせて確認してください。

打ち手が増えるのは残り期間があるうちだけ

賃料、入居者の選定、内見、原状回復。どれも残り期間が短くなるほど選べる幅が狭くなります。

閉店の連絡を受けたら、条件を考える前に残り何か月あるかを数えてください

埼玉の区分店舗で起きたこと|30%アップで2か月動かず、20%アップで反響

打ち手が4つあると言っても、実際にどう動いたのかが見えないと自分の物件へ当てはめられません。今回の区画で起きたことを、時系列で整理します。

物件は埼玉県のある駅の近くにある、1階と2階が店舗のビルです。オーナー様はこの1階と2階を区分所有していて、1階がドラッグストア、2階が美容院。閉店するのは2階の美容院で、区画は約60坪あります。

相談が届いたのは、閉店のちょうど1年前

相談をいただいたのは2026年3月です。閉店予定は2027年3月末で、残り期間はまるまる1年ありました。

時間があること、物件そのものの評価が高いことを前提に、私からは賃料を上げて募集する提案をしました。オーナー様も納得され、30%アップで募集を開始しています。

30%アップで募集した4月と5月は引き合いゼロ

ところが、4月と5月の2か月間は引き合いがありませんでした。内見どころか、問い合わせ自体が動きません。

上げ幅が相場から離れているときは、反応が薄いのではなく、まったく来ないという形で表れます。数字を見て、上げ幅そのものを疑う場面でした。

10%下げた直後に反響、内見から歯科医院の入居希望へ

2か月動かなかった時点で、オーナー様へ10%下げる提案をしました。それでも、もとの賃料からは20%アップです。

条件を変えた直後に反響が入り、内見を経て、歯科医院から入りたいという申し出がありました。現在も条件の調整を進めています。

30%で2か月試してから20%へ落とすという2段構えが取れたのは、残り期間が1年あったからです

退去連絡が直前になるほど、値下げ以外の選択肢が消える

残り2〜3か月で募集を始めると、上げて試す余裕がないまま期限が来ます。

空室のまま引き渡し日を迎えれば、家賃が入らない期間がそのまま損失になります

契約は半年前通告なのに、なぜ1年前に相談が来たのか

ここまでの打ち手は、すべて1年前に情報が届いたことが前提です。では、なぜ届いたのか。

契約書を見ると、解約予告は半年前通告でした。契約どおりなら、2026年9月末に伝えれば足ります。

解約予告期間とは

賃貸借契約で、借主が契約を終わらせるときに、何か月前までに貸主へ申し入れるかを定めた期間です。

店舗の契約では3か月前から6か月前に設定されることが多く、住宅の契約より長めになる傾向があります。

それでも1年前に話が来た理由は、入居者とオーナー様の関係にありました。この美容院は入居して10年ほど。オーナー様とは顔見知りで、入居中のフォローも行き届いていました。入居者側も誠実な方でした。

だから、契約上の義務が発生する前の「実はもう少し先にやめたいと思っている」という段階の話が、先に届きました。

契約書の予告期間は、貸主が確実に使える最短の準備期間でしかありません。契約どおりの通告しか来ない物件では、退去のたびに残り期間との勝負になります。

入居者と良い関係をつくるために、貸主が実際にやっていること

関係が大事だと言われても、テナントに何をすればいいのかは分かりにくいところです。私自身も、所有している区画に対して特別なことは何もしていません。贈り物をしたり、定期的に訪問したりということもしていません。

代わりに、連絡が来たときの対応だけは丁寧にしています。

私が所有しているスナックの区画では、ちょこちょことトラブルが起こります。それでも、入居しているママさんとの関係は良好です。

年始に、海外にいるときLINEが届いたことがありました。「こんなことが起きたので、今お電話できますか」という内容です。そのときも、その場で電話をして対応しました。

この区画で実際に起きたトラブルの中身は、スナック店舗で起きた泥酔客トラブルで、修理費の負担がどこまで貸主に及ぶのかまで解説しています。

やっているのは、この程度のやり取りを面倒がらずに続けることだけです

逆に「そんなの自分でやっておいてください」という雑な対応をすれば、入居者も人間ですから、それなりの対応が返ってきます。退去の話も、義務が発生する日まで届かなくなります。

関係づくりの中身は、返事の速さと誠実さ

海外にいても、年始でも、連絡が来たらその場で電話をする。

入居者が「先に相談しておこう」と思える相手かどうかは、日々の返事の積み重ねで決まります

退去の予兆を早くつかむために、今日から確認する4つのこと

最後に、今日から手を付けられることを整理します。所有している区画ごとに、次の4点を並べてみてください。

確認することどこを見るか早く動けるようになること
解約予告期間賃貸借契約書の解約条項通知が来た日から逆算できる残り期間が分かる
入居者との連絡手段直接つながる電話番号やLINEがあるか義務が発生する前の相談段階で話が届く経路ができる
最後にやり取りをした時期過去の連絡履歴関係が切れかけている区画を先に見つけられる
募集条件の上限と下限現在の賃料と近隣の坪単価通知が来た日に、上げ幅を決めた状態で募集を出せる

4つ目は、今回の30%アップと20%アップのように、試す順番と見直し幅を先に決めておくという意味です。退去の連絡を受けてから考え始めると、考えている時間のぶんだけ残り期間が減ります

すでに解約通知を受け取っている場合は、順番が変わります。通知後の初動は、解約通知が届いた直後に貸主がすぐ行う対応で、空室期間を減らす手順として整理しています。

ご相談前に手元へ用意しておくもの

物件の所在地と区画の広さ、現在の賃料と契約期間、解約予告の条件、入居者から聞いている閉店予定の有無。

この4つが分かれば、残り期間から逆算した募集の組み立てをその場でご相談いただけます

よくある質問

Q
店舗の解約予告期間は、契約書で何か月前に設定しておくとよいですか?

A

店舗の契約では6か月前通告が一つの目安です。ただし、予告期間を長くするほど借り手の負担は増えるため、募集の段階で敬遠される場合もあります。

期間の長さだけで決めず、契約形態とセットで考えてください。更新の扱いによって退去時期の読みやすさは変わります。定期借家契約と普通借家契約の比較で、どちらが自分の物件に向くかを整理しています。

Q
賃料を上げて募集するとき、根拠はどこまで用意すればよいですか?

A

最低限、近隣の募集事例と成約事例を坪単価で分けて並べます。募集賃料は出ている値段、成約賃料は実際に決まった値段なので、募集賃料だけを見ると上げ幅を誤ります。

そのうえで、上限側から試すのか、確実性を取るのかを決めます。相場の出し方は店舗物件の賃料査定方法で、2ステップに分けて解説しています。

Q
反響がない期間は、どれくらいで募集条件を見直せばよいですか?

A

問い合わせがゼロなのか、内見まで来て決まらないのかで分けて見ます。問い合わせがゼロなら条件側、内見後に決まらないなら区画側の事情を疑います。

今回は2か月で見直しましたが、適切な間隔は残り期間によって変わります。見直しの内容が仲介会社と共有できていないと空回りするため、オーナーと仲介会社の連携で、どこまで伝えておくべきかを整理しています。

Q
歯科医院やクリニックを迎えるとき、貸主が先に確認することはありますか?

A

医療系は、必要な設備と内装工事の規模が業種によって大きく変わります。給排水の増設や重量物の設置が必要になることもあり、建物側で受けられるかを先に突き合わせておくと、条件のすり合わせで止まりにくくなります。

工期が長くなるぶん、フリーレントの考え方も一般の店舗とは変わります。誘致の進め方は医療系テナント誘致のコツで、クリニックや薬局の出店条件とあわせて解説しています。

Q
入居中のテナントへ、閉店の予定を直接聞いてもよいのでしょうか?

A

聞き方次第です。「いつ出ますか」と正面から聞くと、退去を促していると受け取られます。

更新の時期、設備の入れ替え、最近の客足など、相手が答えやすい話題から今後の見通しに触れるほうが自然です。相手から先に相談してもらえる関係を作るほうが、結果的に情報は早く届きます。

Q
管理会社に任せている場合でも、貸主が入居者と直接やり取りしてよいですか?

A

窓口を分けておけば問題ありません。契約、請求、クレーム対応は管理会社へ一本化し、貸主は挨拶や近況のやり取りにとどめる形が安全です。

ただし、直接聞いた話は管理会社へ戻してください。どこまで自分で持ち、どこから任せるかの線引きは自主管理と管理会社の使い分けで、店舗物件の管理の実情とあわせて解説しています。

まとめ:閉店の連絡は、早いほど貸主の選択肢が増える

閉店の連絡が1年前に届くと、貸主が使える打ち手は次の4つでした。

  1. 賃料を強気の条件から試せる
  2. 次の入居者を選ぶ余裕ができる
  3. 営業中の状態のまま内見してもらえる
  4. 原状回復の条件を交渉材料にできる

今回の区画では、30%アップで2か月試し、20%アップへ調整した直後に反響が入り、歯科医院との調整まで進みました。そして1年前に情報が届いた理由は、特別な施策ではなく、10年分の丁寧なやり取りでした。

入居中のテナントから閉店の話が出た、あるいは近いうちに出そうだと感じているなら、残り期間が長いうちにご相談ください。賃料の出し方も募集の順番も、残り期間の長さで変わります

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