「店舗を貸したいけど、保証金の償却ってどうするのが正解?」「償却って、取らないと損なの?でも正直、よくわからない……」そんな疑問をお持ちのオーナー様も多いのではないでしょうか。
今回は、実際に数多くのテナント契約を手がけてきたくっつーとやまやが「保証金の償却」について現場目線で本音トークを展開。業界内で当たり前のように扱われている償却の実態、そしてその背景にある考え方の矛盾点を、わかりやすく紐解いていきます。
「住宅とは違う店舗契約の常識」「償却を取る以外のリスク対策の方法」など、オーナーにとって見逃せない実践的な知見が詰まっています。店舗賃貸で後悔しないために、ぜひ最後までチェックしてみてください。
この記事でわかること
この記事はこんな方におすすめ
償却の意味と現場での違和感とは?

「保証金償却って、そもそも何のためにあるの?」そんな素朴な疑問から、この対談は始まりました。
住宅と店舗では事情が違うのに、同じように償却を設定することに疑問を感じるオーナーや業者も少なくありません。
まずはその仕組みと現場の違和感を見ていきましょう。
保証金償却ってそもそも何のため?
やまや:今日はですね、僕の知り合いの不動産屋さんに聞かれた話なんですけど「店舗物件の保証金償却って必要なの?」って言われて、たしかになと思ったんですよ。
くっつー:たしかに、住宅中心に扱っている方からしたら、ちょっと不思議に思うかもしれないですね。
やまや:資料に「保証金の償却◯か月」って書いてあるのよく見ますよね。でもこれ、結局何なのか?って話で。
くっつー:いわゆる保証金を預かるけど、退去時に一部は「償却」として「その分は置いてってね」っていうことですね。
やまや:でも、現状回復もやるんですよね?それなら、さらに償却っておかしくない?って思って。
くっつー:住宅だと猫が壁引っかいたとか、そういう補修費として理解できるんですけど、店舗はそもそもスケルトン返しが多いですよね。
やまや:そうそう。自分で壊して、元に戻すのが基本なのに、さらに償却も取られるって矛盾しているなって。

保証金償却とは、賃貸契約時に預けた保証金のうち、契約書に明記された一定額が返還されない仕組みです。住宅では汚損や破損に備える意味がありますが、店舗ではスケルトン返し(原状回復以上の状態)を前提とするため、償却の妥当性が問われます
住宅とは異なる「店舗契約」での扱い
やまや:不動産業者がオーナーの物件には償却ついていることが多いですよね。だいたい1〜2か月くらい。
くっつー:そうですね。割合で表記されていたり、明確に「30%償却」とかあります。
やまや:でも、個人オーナーの物件って、償却ついてないこと多い気がして。
くっつー:はい、それは傾向としてありますね。そもそも償却という考え方自体が、業者主導で広まっているところもあるので。
やまや:そうなると、オーナーとして「償却って付けるべき?」って悩むんですよ。結局、何に使うかっていうと、募集までの期間のつなぎ家賃的な意味合いで設定しているところもあるみたいです。
くっつー:でもそれなら、解約予告を6か月にすれば済む話じゃないですか?
やまや:まさに。だから償却を当然とする空気って、ちょっと違和感ありますよね。

店舗契約においては、現状回復義務が明確なため、償却の必要性は再検討されるべきです。特に個人オーナーは、償却の仕組みをよく理解せず“当たり前”として設定してしまうと、入居者との信頼関係を損なうリスクもあります
現役実務者が語る「償却は必要ない」理由

ここでは、現場で何十件もの店舗契約を取り扱ってきた実務者として、くっつーが「なぜ償却は不要と考えるのか」を具体的に語ります。理論だけではなく、実際の契約経験に基づく説得力のある指摘が続きます。
現状回復があるのに、なぜさらに償却?
くっつー:結論から言うと、僕は店舗契約で償却って、基本的に必要ないと思ってます。
やまや:お、きっぱり言いましたね(笑)。それは何でなんですか?
くっつー:まず、現状回復ってやるじゃないですか。スケルトン返しが前提なのに、さらに保証金から何か月分も返さないっていうのは、二重取りに見えるかもしれませんね。
やまや:たしかに、最初に「償却されます」って言われて、それでさらに「原状回復もお願いします」って、入居者からしたら納得しにくいかも。
くっつー:ですよね。僕も、前の会社で何十件も契約しましたけど、一回も償却を使ったことないです。
やまや:え、ゼロですか?
くっつー:ゼロです(笑)。会社としても使ってませんでした。そもそも償却という概念自体がなかったと思います、店舗物件においては。
やまや:そうなんですね。やっぱり実際の現場では償却って、あんまり意味をなさないってことか……。

現状回復義務が契約で定められている場合、保証金の償却を設定する合理的な理由が薄くなります。償却は「原状回復しない代わりに差し引く」考え方ですが、スケルトン返しが求められる店舗契約では、この理屈が成立しにくいのです
代替策として「予告期間」や「途中解約ペナルティ」
やまや:でも「償却がないと、募集期間中の家賃どうすんの?」っていう声もありますよね。
くっつー:そこは、予告期間を設ければいいんです。たとえば、解約は6か月前までに通知してください、って契約にすれば、その間に次のテナントを探せますから。
やまや:なるほど、ちゃんと期間取っておけば、空室リスクも減りますよね。
くっつー:もしそれでも不安なら「途中解約の場合は保証金を一部返さない」とか「3年契約で満了前の解約には償却あり」とか、そういう条件なら理にかなってます。
やまや:逆に、満了まできちんと使って「ありがとうございました」って退出したのに、償却で取られるのは理不尽ですよね(笑)。
くっつー:はい(笑)。ですので、僕は償却を使うよりも、契約内容で予防線を張るほうが絶対にオーナーにも入居者にもフェアだと思ってます。

償却という手段に頼らずとも、契約期間や解約予告の設定で空室リスクを管理できます。店舗契約では柔軟な契約設計が可能なため、初期の償却設定よりも合理的な方法で双方の安心を得ることができます
オーナーが採用すべき契約の工夫とは?

ここまで読んで「じゃあオーナーはどうすればいいの?」という疑問が湧いた方も多いのではないでしょうか。
このパートでは、実務経験豊富なくっつーが、保証金償却に頼らない、より合理的な契約の組み立て方を提案します。トラブルを避けながら、空室リスクを減らすための現実的な方法です。
実務経験から見る「償却なし契約」のリスクと対応策
やまや:ここまで聞くと、償却はやっぱり無理に付ける必要ないってことですね。
くっつー:はい。むしろ償却を当然とすると、入居者から不信感を持たれるリスクが高まります。
やまや:でもオーナーとしては、途中解約されたらどうしようとか、不安もありますよね。
くっつー:そのとおりです。だから僕が提案したいのは、解約のルールを明確にすること。たとえば「解約は6か月前までに通知すること」と契約に盛り込む。
やまや:確かに、それなら次の募集の準備も余裕を持ってできるし、償却より納得感あるかも。
くっつー:あと3年や5年など中長期契約の途中で解約する場合には、保証金の全額、または一部を返さないっていう条項をつけるのもアリです。
やまや:なるほど。それならお互いに条件が明確で、フェアな感じがしますね。
くっつー:そうなんです。ルールをきちんと設定しておけば、償却に頼らずとも、ちゃんとリスクはコントロールできます。

「償却ありき」ではなく、契約書に合理的な条件を設定することが、オーナー・入居者双方にとっての安心につながります。途中解約によるリスクを抑えたいなら、予告期間や契約期間に応じたペナルティ条項で代替できます
この記事から学べる5つのポイント

1. 保証金償却は「当然」ではない
保証金償却は、住宅のような自然損耗を前提とした賃貸では意味がありますが、スケルトン返しが基本の店舗契約には必ずしも当てはまりません。「業界の慣例」だからといって無条件に設定するのではなく、その必要性を契約ごとに見直すべきです。
2. スケルトン返しなら償却は二重取りになりやすい
退去時にスケルトン返し(内装をすべて撤去して原状回復)を義務づけているにも関わらず、さらに償却で保証金の一部を返さないという契約は、借主から見れば納得感が乏しく、トラブルの火種にもなりかねません。
3. 償却の代わりに「解約予告期間」を設ける
解約予告期間を長めに設定すれば、オーナーは次の入居者を確保するための時間を確保できます。これにより、償却によるリスク補填の必要がなくなり、より合理的な契約運営が可能になります。
4. 中途解約ペナルティを明文化すればトラブル回避に
3年・5年契約のように長期のテナント契約を前提とした場合は、満了前の解約に対して保証金の一部を償却するなど、条件付きのペナルティを契約書に明示することで、借主との信頼関係を保ちつつリスクを管理できます。
5. 契約内容を明確化することで償却に頼らない賃貸経営ができる
償却に頼らず、契約内容でリスクと責任の分担を明確にすることこそが、店舗賃貸経営の基本です。あいまいな慣習ではなく、明文化されたルールに基づいた賃貸運営をおこなうことで、トラブルを未然に防ぎ、信頼されるオーナーになれます。