「テナントの窓口」を通じて、実際の店舗物件の仲介で起きた“悔しい失注体験”。今回はやまやさんが体験した、神奈川の物件をめぐるあるエピソードをご紹介します。
一見うまくいきそうだった案件が、なぜ失注につながってしまったのか?その背景には、店舗仲介ならではの価格感や、物件とエリアの「縁」といった深い学びがありました。特に、テナント誘致を考えているオーナーさんや、店舗仲介を手がける不動産会社の方にはぜひ読んでいただきたい内容です。
この記事でわかること
この記事はこんな方におすすめ
悔しい失敗から学んだ“テナント募集”のリアル

まずは、実際に起きた悔しい事例をご紹介します。報酬100万円超とも言われた案件が、まさかの理由で契約に至らなかった。その裏には、自分でも気づきにくい「油断」と「視野の狭さ」がありました。
賃料100万円を超えるはずだった高額物件が“刺さらなかった”理由
くっつー:今日は「ちょっと悔しかった話」があると聞いたんですけど、どんな内容ですか?
やまや:はい。実は、少し前に神奈川のある物件を預かったんです。普段はあまり店舗物件を扱わない不動産会社の社長さんから「もしよければ客付けしてくれないか」とお願いされたんですよ。
くっつー:なるほど。どんな物件だったんですか?
やまや:けっこう大きな流れがあって、報酬も100万円を超えるような内容だったので、かなり期待してました。早速「テナントの窓口」のツールを使って募集をかけたら、2〜3社から「内見したい」と手が上がってきて。
くっつー:それは嬉しい展開ですね!
やまや:そうなんです。北関東から2時間半かけて現地に行って、オーナーさんへの挨拶や看板位置の確認、現地調査までして、本当に丁寧に進めてました。契約の申し込み書まで出してもらって「これはいける」と確信していたんです。
くっつー:もう、ほぼ成約まで進んでたわけですね?
やまや:はい。オーナーさんも「紹介してくれてありがとう」と喜んでくれて、紹介元の会社さんとも「良いご縁ができてよかったね」なんて話していたんですよ。ここまではすごく順調でした。

このケースでは、ほぼ契約直前まで話が進んでいたにもかかわらず、最終的に競合に取られてしまったという事例です。不動産仲介では「契約書にハンコをもらうまで安心できない」と言われるように、どれだけ進んでいても油断は禁物です
1社だけに任せた結果……複数紹介の重要性に気づいた瞬間
くっつー:でも、そこから一転して成約に至らなかったんですよね?何があったんですか?
やまや:はい……。実は、別の不動産会社が、募集賃料の2割増しで別のテナントを紹介してきたんです。つまり、私たちが出していた100万円越えの賃料に対して、そこは上乗せした金額で勝負してきたんです。
くっつー:えっ、それはすごい!まさかの上乗せ提案!
やまや:正直、私も「そんなことあるんだ……」と驚きました。同業種の出店だったので、オーナーさんからしたら、より高い賃料で借りてくれる方が当然良いですからね。紹介元の会社からは「ごめんね……やっぱ賃料がすごくて」と連絡が来ました。
くっつー:そっか、その不動産会社は報酬も取れるんですよね。
やまや:そうなんです。しかも、私のほうのテナントさんはその金額は出せないと判断されてしまって。完全に「後出しジャンケン」で負けた形です。
くっつー:それは悔しいですね……。
やまや:でも、この出来事から学んだのは「物件はできるだけ多くのテナントに紹介すべき」ということ。1社だけに頼ると、今回のようにもっと条件の良いテナントに出会えない可能性があるんですよね。

物件を1社だけに任せてしまうと、紹介先が限られ、その分だけ賃料アップのチャンスを逃してしまう可能性があります。特に店舗物件のような“1点物”では、幅広いネットワークを活かした募集が成功の鍵になります
賃料設定の考え方とオーナーの利益最大化戦略

悔しい経験を通じて、やまやさんが気づいたのは「賃料は相場で決めるものではない」という事実です。物件の“魅力”や“立地”によっては、想像以上の価格で決まることもあります。
オーナーの利益を最大化するためには、もっと柔軟な視点が必要です。
「相場どおり」では足りない!賃料設定に必要な“柔軟さ”とは?
くっつー:今回のことで、ほかにも気づいたことはありましたか?
やまや:はい。やっぱり「募集賃料って、必ずしも相場どおりである必要はない」ってことですね。今回の物件も、結果的に賃料を2割上乗せしたテナントが勝ったわけですから。
くっつー:なるほど。それは思い切った提案だったんでしょうね。
やまや:そうですね。私たちが出していた賃料が「普通」だと思っていたけど、あの物件に惚れ込んで「少し高くても出したい」と思うテナントさんがいたわけで。つまり、賃料は“物件の魅力”と“市場の反応”で変わるんですよね。
くっつー:確かに、特に店舗物件って相場って言いづらいですよね。
やまや:そうなんですよ。マンションと違って、比較対象があまりないですし、1点物の価値を見抜いてくれるテナントがいれば、賃料も跳ね上がる可能性はあると思います。

住宅と異なり、店舗物件は立地・視認性・希少性といった“個別の価値”が大きく影響します。したがって「周辺の相場」にとらわれすぎず、物件そのものの魅力を最大限に活かした賃料設定が重要です
「多少高くても借りたい」—そんな需要を逃さない販売戦略
くっつー:ほかにも、賃料に関して新たに感じたことってありますか?
やまや:あります。やっぱり、今のテナントさんって新築物件だとめちゃくちゃ高いじゃないですか。でも、築年数が多少あっても、好立地だったり希少性があれば「この賃料でも全然安い」と感じる方もいるんですよね。
くっつー:確かに、新築と比較したら費用感変わりますね。
やまや:そうなんです。だから、場合によっては最初から「少し高め」で募集してみるのも一つの手かもしれません。「こんなに高くて無理でしょ」って思わずに、まず提案してみて、それで反応を見て下げてもいい。
くっつー:オーナーさん側からすると、そういうアドバイスがあると安心ですよね。
やまや:はい。逆に言うと、不動産会社側も「この賃料でも借りたい人いるかも」と気づいたら、積極的にそう提案してあげるべきだと思います。

募集の初期段階で強気の価格設定をおこない、市場の反応を見る戦略は「テスト価格」とも呼ばれます。これは特に飲食や美容など、出店場所に強いこだわりがある業種には有効です。買い手が「この場所なら多少高くてもOK」と思えるロジックが成立するためです
不動産業界で感じる“エリアとの相性”という不思議

今回の失敗からもう一つ学んだことがあります。それは「どれだけ丁寧に動いても、なぜかうまくいかない地域がある」という不思議な現象。
数字では説明しきれない“エリアとの相性”の存在を、私たちは現場で何度も感じてきました。
成功する地域・失敗する地域には何が違うのか?その共通点を探る
やまや:くっつーさんって、やっぱり得意なエリアとかあるんですか?
くっつー:あります。私、なぜか「相鉄線沿線」と相性が良いんですよ。特に二俣川エリア。あの辺では契約も成約率も高くて、出店希望者との相性も抜群なんです。
やまや:へえ、やっぱり“向き不向き”ってあるんですね。
くっつー:逆に、なぜか苦手なエリアもあって……。たとえば世田谷。桜新町で2件くらい破談になっている案件があって、一緒に行ったのも覚えてますよね?あれも決まらなかった。
やまや:覚えてます(笑)。確かに、世田谷エリアは少し癖がある印象。
くっつー:そうなんですよ。すごく魅力的な街だけど、私とは縁がないというか。これって感覚的な話ではあるんですが、エリアごとに「得意・不得意」ってやっぱりありますよね。
やまや:不思議だけど、現場にいると納得できますよね。

不動産業では「相性の良いエリア」という感覚が意外に重要です。土地勘・人脈・過去の成約経験など、データだけでは測れない現場的な要素が絡むため、数字では見えない“勝ちパターン”を掴んでいる担当者も少なくありません
「縁がある街」と「縁がない街」——プロの経験が語る、本音とは
くっつー:ちなみに、やまやさんが「もうやめようかな」って思ったエリアってあります?
やまや:実は、今回の神奈川エリアですね。やっぱりちょっと遠いし、毎回通うのが大変で……。それに、なぜかうまくいかない案件が多くて。
くっつー:神奈川、遠いですよね。2時間半移動とか普通にあるし。
やまや:そうなんです。それに比べて、栃木のほうが全然スムーズなんですよ。自分でも不思議だけど、あの地域は本当に縁があるみたいで。良い案件も多いし、出店希望者の動きも早い。
くっつー:それ、すごくリアルですね。やっぱり“縁”って大事なんだなあ……。
やまや:はい。だから今は「相性の良いエリア」に集中しようと思ってます。もちろん新しい挑戦も大事ですけど、縁がある場所での実績を積むほうがオーナーさんにも安心してもらえると思うんですよね。

不動産仲介は“数字”だけで動かない仕事です。地域の特性を理解し、担当者自身がその街に合っているかどうかを見極めることで、より良いマッチングが実現します。経験からくる“縁のある街”は、信頼と実績が積み重なる場所でもあります
この記事から学べる5つのポイント

1. 1社独占は危険!物件紹介は複数社に依頼すべき
物件を1社の不動産会社にしか紹介していなかったことで、もっと好条件のテナントと出会うチャンスを逃してしまいました。特にテナント募集は“スピードと広さ”が命。
複数の業者に声をかけることで、競争力が生まれ、より良い条件のテナントが集まる可能性が広がります。
2. 「相場どおり」に縛られない賃料設定が成約の鍵
店舗物件はマンションのように明確な相場があるわけではありません。立地や視認性などの条件が重なれば、通常より高い賃料でもテナントは魅力を感じてくれます。
相場を参考にしつつも「物件のポテンシャルを最大限引き出す価格設定」が重要です。
3. 「高くても借りたい」需要を見逃さない戦略を
近年は新築物件の賃料が非常に高騰しています。そのため、築年数があっても立地や物件の条件がよければ「この価格でも借りたい」と思うテナントは確実に存在します。
最初から安く出すのではなく“テスト価格”で市場の反応を見ることも有効な手法です。
4. 数字では見えない“エリアとの相性”が存在する
不動産仲介の世界には「なぜか契約が決まる地域」「どう頑張ってもうまくいかない地域」が存在します。これは担当者との相性や、過去の経験、人脈などが影響している可能性があります。
エリア選びは「データ + 実体験」で見極めましょう。
5. “縁がある街”に集中することで成果が出やすくなる
どれだけ努力しても結果につながりにくい場所より、自分にとって相性の良い“縁がある街”に注力したほうが成果が出やすいです。オーナーからの信頼も積みやすく、リピートにもつながるため、結果的に長期的な利益に結びつきます。