「賃料って、どのくらいが妥当なんだろう……」
店舗物件を所有しているオーナーさんや管理会社さんから、よくいただく悩みの一つです。居住用のマンションやアパートなら、同じ建物内のほかの部屋と比較してある程度の相場感が掴めます。
しかし、店舗物件は面積も設備もバラバラで、周辺に似た条件の物件がないことも珍しくありません。
そこで今回は、店舗不動産の現場で実際に多くのテナント誘致をサポートしてきた「くっつー」と「やまや」の2人が、賃料の決め方について、リアルな事例とともに解説します。読み終える頃には「自分の物件はいくらで出すのが適正か」が見えてくるはずです。
この記事でわかること
この記事はこんな方におすすめ
テナント賃料の正しい設定方法とは?まず見るべきは「前テナントの賃料」

店舗の賃料をどう決めるかは、多くのオーナーさんにとって非常に重要なテーマです。まず最初にチェックすべきポイントは、実はとてもシンプル。「以前いくらで貸していたのか?」です。
前の入居者の賃料をベースに考えるのが第一歩
くっつー:今日も店舗物件をお持ちのオーナーさん向けに、役立つ情報をお届けしていきます。
やまや:よろしくお願いします。僕が店舗物件を預かっていたとき「賃料ってどのくらいで出せばいいの?」とよく聞かれましたね。
くっつー:住居だったら相場感が掴みやすいですけど、店舗って本当にバラバラで難しいですよね。
やまや:そうなんです。だから僕がまず必ずやっていたのが「前のテナントの賃料をチェックする」ことです。今の相場を調べるのはそのあとでいいと思っていて、まずはその物件の過去データを基準にするんです。
くっつー:それ、大事ですよね。設備のグレードや内装の有無にもよりますけど、まずはその場所で以前いくらで貸されていたかを知るのがスタートラインですよね。

テナントの賃料設定で最も信頼できるデータは「実際に貸されていた賃料」です。特に同じ物件において、直近で入っていたテナントの賃料を確認すれば、大きな失敗は避けられます。周辺の物件と比べる前に、まず自分の物件の履歴を振り返りましょう
ポータルサイトを使った周辺相場の調べ方
過去の賃料を確認したうえで、次にやるべきなのが「周辺の相場感を掴むこと」です。ここでは、実際に使われているサイトやチェックポイントを具体的に紹介していきます。
くっつー:周辺の賃料相場ってどう調べてますか?
やまや:僕は「アットホーム」で住所まで絞って検索します。駅やエリア単位じゃなくて、何丁目までちゃんと見るのが大事ですね。
くっつー:ポータルサイトのなかでも「アットホーム」は店舗物件が多くて、けっこう実用的ですよね。
やまや:そうですね。特に「レインズ」って店舗はあまり出てないので、アットホームが一番見やすいです。住所と坪数を見て、坪単価でざっくり判断します。

レインズ(不動産業者専用データベース)には店舗情報が少ないため、一般公開されている「アットホーム」が現実的な選択肢になります。実際に似た広さや立地条件の物件を調べ、坪単価を出すことで、おおよその賃料相場が見えてきます
階数で賃料はどう変わる?路面と空中階の違い
賃料設定に影響するもう一つの重要なポイントが「階数」です。住居とは逆に、店舗では1階がもっとも高く、上階に行くほど安くなる傾向があります。
くっつー:回数って、賃料決めるときに気にします?
やまや:店舗の場合は、やっぱり1階が高くて、上に行くほど安くなる傾向がありますね。住居と真逆なんです。
くっつー:たしかに。住居は上階のほうが眺望が良くて高くなるけど、店舗だと逆ですよね。
やまや:そうですね。僕の場合は、1階ならある程度高めに設定します。2階以上になると、あまり階数の差は出さないかなって感じですね。2階と4階で大きく変わるかというと、そんなに差はつけないです。
くっつー:でも専用階段があるかないかで、かなり変わりますよね。
やまや:はい、専用階段で直接2階に上がれるなら、それは1階と同じくらいの価値があると考えていいです。逆に、エレベーターで上がるだけだと、どこかで妥協が必要ですね。

店舗賃料は「路面(1階)」が最も高く、空中階に行くほど安くなるのが基本です。ただし「専用階段で直接アクセスできる2階」は例外で、集客力が高く、1階並みの賃料を設定できることもあります。視認性とアクセス性が鍵となります
新築や空室が続く場合の賃料設定はどう考える?

前テナントがいない新築物件や、空室が長く続く場合は、賃料設定に迷うオーナーさんも多いはずです。このセクションでは、事業主の視点と現場の調整法、両面からポイントを掘り下げます。
新築物件の賃料は「事業主の収支シミュレーション」で決まる
くっつー:新築の場合って、前のテナントいないから、賃料の基準がわかりにくいですよね。
やまや:そうなんです。だから新築の場合は、極論ですけど「事業主の収支シミュレーション」がすべてかなと。
くっつー:建築費に応じて、収益還元法で賃料設定するやつですね。
やまや:はい。たとえば建築費が5億円で、表面利回りが10%なら、毎年5,000万円の収益が必要。階数ごとに賃料を割り振って、その目標に合わせて決めるんです。
くっつー:でも、最近って建築費めちゃくちゃ上がってますよね。
やまや:そうなんです。それで利回りが合わずに、賃料が周辺より高くなっちゃうケースが多いんです。

新築物件では「収益還元法」という手法が一般的です。これは建物の建築費や期待利回りから逆算して、各フロアの賃料を設定する方法です。ただし、建築費の高騰により、相場から乖離した高額設定になることもあるため注意が必要です
空室リスクを下げるための「相場を意識した調整術」
くっつー:でも実際、新築で賃料高すぎて1年半決まらないってケースもありますよね。
やまや:ありますね。そういうときは、オーナーさんに「相場を意識して少し下げませんか?」って提案することが多いです。
くっつー:ちょっと下げるだけでも、テナントの決まりやすさって全然変わってきますからね。
やまや:はい。特に物件自体が良ければ、少しの調整で一気に成約が進みます。逆に、こだわりすぎて空室が長引くと、もっと損になりますしね。

「空室期間」もオーナーにとっては大きなコストです。新築でも空室が長引くようなら、賃料を柔軟に調整することが重要です。テナントが決まらなければ利回りゼロ。少し下げても早期成約できれば、結果的に収益が安定します
業種ごとにこんなに違う!坪単価の目安と注意点

テナント賃料は、実は業種によっても大きく変わります。どの業態が高く出せて、どれが慎重になるべきなのか、実例を交えて見ていきましょう。
坪単価が高いのは「飲食店舗」、でもリスクも大きい
くっつー:業種によって賃料ってかなり変わりますよね。
やまや:変わりますね。基本は「飲食、サービス、物販」の3ジャンルに分けて考えてますけど、一番賃料を高く出せるのはやっぱり飲食です。
くっつー:港区の5坪で、坪4〜5万円とかもザラにありますもんね(笑)。
やまや:ありますあります(笑)。特に小さい坪数の飲食は、坪単価が高くても成り立ちます。狭くても回転率高い業態なら全然OKですし。
くっつー:でも飲食って廃業率も高いですよね。
やまや:それが問題なんです。飲食は賃料高く取れる反面、クレームや設備トラブルも多いし、廃業率も高い。10年で9割潰れるって言われてますから。
くっつー:匂いやダクトの位置とか、あと近隣への影響もありますしね。

飲食店舗は坪単価が高く設定できる一方で、リスクも大きい業態です。設備投資が重く、匂いや煙によるクレーム、さらには高い廃業率など、オーナー側も慎重な判断が求められます。高収益を狙える反面、空室リスクとトラブル対応を想定する必要があります
「サービス」「物販」業態での賃料相場の傾向
くっつー:サービス業って、業態によってばらつきありますよね。
やまや:ありますね。たとえば調剤薬局や学習塾なんかは高めでも決まりやすいです。逆に、コインランドリーとかは安くないと厳しい。
くっつー:確かに。「家族層」向けサービスは、最近高くても出せますよね。
やまや:はい。でも物販は全体的に低めかなと思います。やっぱり粗利が低いですからね。
くっつー:そうですね。売上から賃料を出せる範囲も限られてきますし。
やまや:物販で賃料が高いと、それだけで経営が成り立たなくなる可能性がありますから。

サービス業は業態ごとの差が激しく、安定した業種もあれば価格競争の激しいものもあります。物販業態は粗利が低いため、賃料に対する耐性が弱く、安く設定しないと決まりにくい傾向があります。業種別に「支払える賃料の限界」を把握しておくことが重要です
賃料交渉を前提にした価格設定のコツとは?

住居用物件と異なり、店舗では賃料交渉が前提となるケースが非常に多くあります。このセクションでは、なぜ店舗は交渉されやすいのか、そして最初の募集賃料はどう考えるべきかを掘り下げます。
なぜ店舗は住居と違って賃料交渉されやすいのか
くっつー:住居って、あんまり家賃交渉ってされないですよね?
やまや:そうですね。賃料交渉ってほとんど経験ない人も多いと思います。
くっつー:でも店舗の場合、かなりの確率で交渉されません?
やまや:はい。店舗の場合は、交渉されるのが当たり前って思っていたほうがいいです。事業者は経営計画を前提に賃料を考えるので、少しでも条件をよくしたいんですよね。
くっつー:たしかに、固定費として大きい部分ですもんね。
やまや:だからこそ、最初から交渉されることを前提に、ある程度高めに設定しておくことが重要です。

店舗賃料は、事業者側が「売上から逆算して支払える額」を明確に持っているため、交渉されやすい傾向にあります。オーナー側も「交渉ありき」で賃料を設定しないと、想定より低い価格で決まってしまう可能性があります
高めに出すのが正解?最初の募集賃料の考え方
くっつー:最初から高めに出すって、怖いと思うオーナーさんもいそうですよね。
やまや:でも、実際は少し高く出しておいて、交渉に応じるっていう流れが基本です。いきなりギリギリの金額で出すと、交渉余地がなくなりますから。
くっつー:なるほど。テナント側から見ても「値下げできた」っていう満足感もありますしね。
やまや:そうなんですよ。特に好立地だったり、設備がしっかりしていたりすると、高めでも問い合わせは入りますから。あとは、しっかり相場を把握しておくことが前提です。
くっつー:結局、最初の設定って「交渉も込み」でプランを組むってことですね。

賃料交渉を前提とした「戦略的な初期設定」は非常に重要です。市場相場よりやや高めに設定しておくことで、値下げ交渉にも柔軟に対応でき、結果的に納得のいく条件で契約が成立しやすくなります。初期から底値で出すのはリスクです
まとめ|賃料設定の基本は「データと現場のバランス感覚」
ここまで、店舗物件の賃料をどう設定すべきかについて、具体的なステップと注意点を紹介してきました。住居物件とは違い、店舗の賃料設定は
- 過去の実績
- 周辺相場
- 業種ごとの違い
- 階数や設備
といった複数の要素を組み合わせて考える必要があります。
くっつー:結局「これが正解!」っていう賃料の決め方って、ないですよね。
やまや:そうなんです。でも、判断材料はいっぱいあります。
- まずは「前テナントの賃料」を確認
- 次にアットホームなどで周辺相場を調べる
- それに階数や設備、業種の特性を加える
- 最終的には少し高めに出す
これが基本ですね。
くっつー:店舗の場合って交渉があるから、最初の価格設定が甘いと本当に勿体ないですもんね。
やまや:はい。しかも、テナントが決まらない間も時間コストが発生しているので「空室リスク」を常に意識しておいたほうがいいですね。
くっつー:この動画を見てくれている店舗オーナーさんや管理会社さんが、少しでも賃料設定に自信を持てるようになったらうれしいですね。
やまや:本当にそう思います。実際に現場で見てきた感覚をこれからもどんどんシェアしていきたいです。

店舗賃料の正しい決め方は「これだけやればOK」という単純なものではありません。ただし、前テナントの賃料・周辺相場・設備条件・業種の耐性・交渉前提の初期設定といった基本的な考え方を押さえれば、成功にぐっと近づきます。「データ」と「現場感覚」のバランスが重要です
このサイトでは、店舗物件を所有・管理している方向けに、現場で役立つノウハウや考え方をお届けしています。今回の内容が参考になった方は、ぜひXでのシェアをお願いいたします。
くっつー:ありがとうございました!
やまや:ありがとうございました!
この記事から学べる5つのポイント
1. 賃料設定は「前テナントの金額」から始める
実際にその物件で支払われていた賃料は、最も信頼できる基準値です。前の入居者の賃料を確認することで、過去の実績に基づいた現実的な設定が可能になります。
2. 周辺相場は「アットホーム」で丁目単位まで調査
エリア全体の相場ではなく、物件の住所に近い店舗をピンポイントで比較することが重要です。「アットホーム」は情報量が豊富で、坪単価の把握にも適しています。
3. 業種によって支払える賃料の上限は異なる
飲食・サービス・物販の順に、坪単価の相場やリスクが大きく異なります。業態の特性を理解しないまま一律の賃料を設定すると、決まりにくさや早期退去の原因になります。
4. 新築や空室が続く場合は「柔軟な調整」が鍵
収益還元法で目標利回りから賃料を設定するのが基本ですが、現実に合わない金額ではテナントが決まりません。少し賃料を下げるだけで成約率が一気に上がるケースもあります。
5. 店舗は賃料交渉が前提、高めの初期設定が正解
居住用と違い、店舗は交渉を前提とした価格設定が常識です。いきなり底値で出すのではなく、交渉を見越して余裕をもたせた設定が、結果的に納得のいく条件での契約に繋がります。